小児生活習慣病(小児成人病)


特に最近よく言われ問題視されることの一つとして、大人子供を問わず朝食抜きの人が増えていると言うことです。脳の働きを活性化させるに
は体温上昇の為のエネルギー補給が必要で、朝食をしっかり食べないでずっと血糖値が低い状態が続くと、脳や神経のエネルギー源のブドウ
糖が不足して、元気が出なかったり、イライラやだるさ、集中力に欠けるといった事につながると考えられます。ストレスを感じている人こそ、朝
食を取らなければなりません。

2000年度に全国の小学5年、中学2年を対象に行った「児童生徒の食生活等実態調査」によれば朝食を必ず食べている人は全体の82パー
セント、一週間の内半分以上抜いている人は、小学生で6パーセント、中学生で7.4パーセントで、1995年の調査のときよりも、それぞれ2.1
ポイント、0.9ポイント高くなっています。また頭痛やだるさを訴えて保健室に来る生徒の多くが朝食をとっていないことがわかっています。そして
普段朝食を「ほとんど食べない人」の36パーセントが「何時も疲れを感じる」と答えたのに対し「必ず食べる人」の場合は23パーセント。「いつ
もいらいらする」人も「ほとんど食べない人」の37パーセントに対し「必ず食べる人」の16パーセントと差がありました。

またもう一つ大変問題なのは60パーセントくらいの人が塾や習い事で食事の生活習慣が乱れていると答えていることからも、ますます増え続
ける、肥満児と小児成人病が問題となってくるわけです。

ところで最近では子供達の10〜15%以上が肥満であり、所謂、生活習慣病(成人病)の予備軍になっています。10歳頃の第2発育急進期と
呼ばれる体重増加時期に見られる肥満は、一過性のため解消されることも多いのですが、5〜7歳頃に既に肥満であった子供は成人してから
も解消しにくい傾向にあります。こうした肥満が小児生活習慣病(小児成人病)の大きな危険因子となっているのです。

太った子供達の食生活を見ると、朝食を食べない、食べる時は大量の食べ物をはやぐいする、昼食や夕食を決まった時間に摂らず、食べた
い時間にコンビニのおにぎりや、カップ麺、から揚げ、お菓子などを場所をかまわず食べる、ペットボトルの清涼飲料水を片手に噛まずに流し
込む、ファミリーレストランや、ファーストフード、焼肉屋などでの脂肪と糖分過多の食事が多く好きなものだけを多量に食べる、野菜類がかなり
不足してい
る等、不規則で偏った食事をしています。

また肥満によるいじめや、結果としての不登校など、心の影響も深刻になってきています。そうしてこうした精神的なストレスが更に肥満を加速
化させる悪循環に陥っているのです。

肥満を防ぐには、バランスの良い食事を、キチンととる生活習慣を身につけさせることです。このためには母親を初めとする家族全員の協力が
欠かせません。子供の肥満やそれに伴う小児生活習慣病(小児成人病)は、親の責任であり、問題のある生活習慣の結果なのです。

最近、アメリカでも、特に肥満が多いといわれているバージニア州では、このままでは将来は30%の子供達が糖尿病を発症し心筋梗塞に罹
患して平均年齢の低下にもつながりかねないと、親子で一緒に体重減少に取り組めるような教室も開かれるようになり、また子供の食生活の
大部分は親の責任とも言うことで、手軽で面倒が無いものの高カロリーなファーストフードやスナック菓子や清涼飲料水等をできるだけ減らし、
従来からの野菜を十二分に摂るといった家庭料理、所謂、スローフード、スローライフに戻る運動などもされています。この傾向は80年代から
急速に進んだ”夫婦共稼ぎ”の社会的傾向で急速に加速されていったものと考えられ、あまりの肥満の為、究極の選択肢として、約0.5%のリ
スクがあるにもかかわらず90%の人が減量出来ると言われる、”胃を小さくするといった手術”も全米では年間10万人もの人が受けていると
言われています。

また文部科学省も2005年度から学校で食事に関する教育を行う「栄養教諭」の制度を創設する事にしたそうです。近年、子供達の偏食や食
生活の乱れが目立ち、生活習慣病の増加が懸念されているためです。これにより、1)偏食、肥満や食物アレルギーのある児童生徒に個別指
導する、2)家庭科等の授業を受け持ち、食に関する指導を行う、3)教職員や保護者と連絡を取り合い、食に関する教育のコーディネーターと
しての役割を果たす。などを想定し取り組まなければならない時代にもなってきています。

  ・・・ と言うことで・・・これからもう少し詳しくそれらを見てみましょう。

成人病は、本来、成人が罹る疾病という意味であり、日本人の三大死因である癌、心臓病、脳卒中は三大成人病ということになります。成人病
の成因は、多くの調査で、約60%が生活習慣(ライフスタイル)によるもので、約20%が環境により、あとの約20%が遺伝によるものであると
いわれています。従って生活習慣病という名前は1996年(平成8年)に当時の厚生省がそれまで成人病と呼んでいた病気の多くを、40台過ぎ
の中高年からは誰にでも起こりがちな、加齢による老化現象として起こってくる、マア歳をとったらやむをえない病気だとの認識では・・・いささ
か誤解されそうだとの立場から、実は加齢による老化現象ばかりでなく、若い時代から知らず知らず継続してきている個人個人の健康上あま
り良くない生活習慣(食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣)による影響が大きな原因であるという事を一層解りやすくするた
めにつけた名前で、アメリカはもとよりフランスにも生活習慣病という概念が導入されており、ドイツでは文明病、スウェーデンでは裕福病という
名称が用いられています。従ってどの病気が生活習慣病かを分類するといった事にはあまり意味はなく、さまざまな病気を生活習慣病と云う観
点から捕らえる事が基本となるわけです。

I 小児期における生活習慣病

小児生活習慣病(小児成人病)は現在の日本のように高度に経済の発展した国々の子どもたちに多く認められます。 最近、わが国においても
生活習慣病(成人病)の若年化が問題になり、生活習慣病予防は小児期から開始すべきではないかと議論されるようになり、厚生省に研究班
が組織され、平成2年に小児成人病(小児生活習慣病)が定義されて、小児期の生活習慣(ライフスタイル)の改善などにより予防しうる成人病
(生活習
慣病)をいい、3群に分類されています。

第1群は、生活習慣病(成人病)そのものが小児にみられるもので、若年化した生活習慣病ということになります。糖尿病は、学校検尿の成績
からも増加しており、成人型糖尿病であるインスリン非依存型糖尿病が、インスリン依存型糖尿病の五倍も多く認められ、インスリン非依存型
糖尿病の80%が肥満を伴っており、まさに、小児成人病であります。虚血性心疾患による死亡例もみられるようになり、また、子どもの胃潰
瘍、十二指腸潰瘍も増加しています。現代の子どものストレスに対する耐性が十分でないことがうかがえます。

第2群は、日本小児の剖検例で、十代の小児の98%に、動脈硬化の初期病変である脂肪沈着が大動脈に認められ、なかには進行した段階
のものも認められています。これは潜在している成人病であります。このような病変の大部分は、適切な対策がとられるならば、かなりよく改善
させうるし、少なくともその進行を遅らせることができると考えられています。

第3群は、動脈硬化促進の危険因子を小児期にすでにもっているもので、いわば成人病予備軍(肥満児、高脂血症児、高血圧児など)でありま
す。そしてこのような病気は、その人の食事や運動といった生活習慣と密接な関係があることから、生活習慣病とも言われています。

II なぜ小児期から

日本人の死亡原因の第1位はがん、2位は虚血性心疾患(主に心筋梗塞)、3位は脳血管障害であり、これら
3つの病気は3大生活習慣病(成人病)と呼ばれています。ところで、第2位の虚血性心疾患(心筋梗塞)は、心臓に栄養素を送っている冠動脈
の動脈硬化が、そして第3位の脳血管障害も脳の動脈硬化がその主な原因となっています。このように多くの生活習慣病と呼ばれる病気の発
症原因としてかかわりを持つ、もっとも重大な要因の一つが動脈硬化と呼ばれる現象であります。

動脈硬化とは血管の内壁にコレステロール等がたまったり、血管の細胞が増殖したりして、血管が弾力性を失い、硬くもろくなるとともに、血管
壁が厚くなり、内腔が狭くなった状態をいいます。このような動脈硬化が進むと、身体にとって大変重要な酸素や栄養を運ぶ血液が、血管が破
れたり、詰まったりすることにより体の隅々の組織まで酸素や栄養を運べ無くなってしまいます。

それでは、動脈硬化は何歳頃から始まるのでしょうか。昭和25年に起こった朝鮮戦争で次のようなデータがあります。外見上健康な若いアメ
リカの兵隊さんが戦死した場合、すべて解剖するようですが、そのとき若い兵隊さん(平均年齢24歳)のうち、70%以上の兵隊さんがすでに
動脈硬化を起こしていたようなのです。この驚くべきデータは、その後のアメリカでの心臓病予防へ向かわせる原動力になりました。また、この
データは24歳以
前にすでに動脈硬化の発症が始まっていることを物語っています。では、何歳頃に最初の動脈硬化が始まるのでしょうか。これを解明するた
めに、さまざまな病気で亡くなった小児の解剖例を見てみると、アメリカ人のみならず、日本人でも10歳、すなわち小学校4、5年生の小児で9
0%から100%に動脈硬化の初期病変である「脂肪線条(fatty streak)」が認められたということです。すなわち、動脈硬化は病理学的には
小児期に発症するようです。このため、虚血性心疾患や脳血管障害の予防は成人期からでは遅く、小児期から取り組まなければなりません。
また、これらの病気が小児生活習慣病(小児成人病)と呼ばれる所以はここにあります。

平成8年に厚生省は、成人病を生活習慣病と名称を変更しましたが、生活習慣病の中で、最も問題になっていることは、動脈硬化が早い時期
に促進してしまうことで、動脈硬化促進の危険因子として(1)高血圧、(2)高脂血症、(3)低HDLコレステロール、(4)肥満、(5)糖尿病、(6)喫
煙、(7)ストレス、(8)家族性因子(親の早期心筋梗塞、高血圧、糖尿病など)、(9)運動不足、があげられます。生活習慣病のような慢性疾患
の進展には、多くの危険因子が関与していますが、危険因子を多くもつ程、また、−つ一つの因子の程度が強いほど、その疾患になる確率が
高く、ハイリスク状態にあるといえます。最近、わが国において、35歳〜45歳の男性の虚血性心疾患受診率が高くなっていますが、これらの
男性は小児期から危険因子を数多くもっていたものと考えられます。

東京都内の高校生の調査で、危険因子を全くもってない者は10%弱であり、大半は1〜2つの危険因子をもっており、なかには4つ以上もって
いるハイリスク児もおります。 このようなハイリスク児はいずれもハイリスク状態にあることに気付いておらず、実際に、臨床的にはほとんどす
べて無症状であります。肥満は動脈硬化の危険因子の一つでありますが、糖尿病、高脂血症、低HDLコレステロール血症、高血圧、それに運
動不足を伴い易いので、特に問題になります。肥満、耐糖能低下、高脂血症、高血圧は死の四重奏と呼ばれています。肥満傾向児は、近年
増加しており、最近の20年間に肥満傾向児の出現率は2〜3倍上昇しています。乳児肥満のうち約50%位が学童期肥満に移行し、学童肥
満は8歳から増加しはじめ、12歳頃にピ一クがありますが80%位が肥満成人になると
いわれ、肥満治療の困難さを示しています。 

動脈硬化指数は、総コレステロール値からHDLコレステロール値を差し引いたものをHDLコレステロール値で割ったもので表しますが、この
動脈硬化指数が、肥満では高く、動脈硬化が早く進むことを示しています。
また、中性脂肪も、肥満では高く、過食であることを示しています。

      お疲れ様です? ここらで一寸一服 コーヒーブレイク!     子供の時代からの生活習慣が人生の基礎ともなります 積極的に良い習慣を身につけましょう!       

肥満  肥満は過食と運動不足により、取り過ぎた栄養分が燃えずに脂肪細胞の中に脂肪として蓄積されることが原因で起こります。私達の身
体は水分、脂肪、たんぱく質、ミネラル、糖質、などの成分から成り立っています。このうちたんぱく質、ミネラル、糖質の量はそれほど変化はし
ないのですが、脂肪の量には変動があり、体重が増えたり減ったりするのは、主にこの脂肪の変動によるものなのです。従って医学的にはた
だ単に外見上の太った状態を指すのではなく、体全体に占める脂肪の割合(体脂肪率)が高くなりすぎた状態を肥満と言っているわけです。そ
して肥満を放置すれば、糖代謝異常、高血圧、HDLコレステロールの低下、中性脂肪(トリグリセライド)の増加、等を
きたします。これらはすべて動脈硬化(動脈が狭く詰まりやすくなる)を促進させます。

この肥満には良く知られている2つのタイプがあり、主に下半身に脂肪がつく皮下脂肪型肥満といわれる女性に多い洋ナシ形と呼ばれる肥満
に比べ、リンゴ型と呼ばれる、おなかの大きくなる内臓脂肪型肥満が特に問題になります。小児の肥満の80%は、成人となつてからも肥満を
持続し、若い人でも脳梗塞、心筋梗塞を起こしやすく
なります。最近は、肥満児が児童全体の15%と急激に増加しています。

高脂血症  血液の中には、コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、遊離脂肪酸、リン脂質といった脂肪が含まれていて、これらはそれ
ぞれ体の組織の細胞膜や副腎皮質ホルモンや消化液の胆汁を作ったり、また体にエネルギーを供給したりと大変重要な役割をしていますが、
これらの脂肪の内一つでも普通より多くなった状態を高脂血症と呼び、その内でもとりわけこのコレステロールと中性脂肪の2つの増加が、解
りやすく云えば、何れもいわゆる血管の垢となって血管を詰まらせたり、ぼろぼろにしたりして動脈硬化を促進させます。 そのコレステロールに
は善玉と悪玉と呼ばれる2つのコレステロールがあるわけですが、悪玉は低比重リポ蛋白(LDL)といって末梢組織にコレステロールを運んで
沈着させ、また血液の粘度を上げたりして動脈硬化を促進させるのに比べ、善玉と呼ばれる高比重リポ蛋白(HDL)は動脈壁に沈着したこの
悪玉コレステロールを取り除いて肝臓に戻す働きをしてくれているわけです。したがってコレステロールに関してはこの悪玉コレステロールを増
やす飽和脂肪酸の多い動物性の油、バター、ラード、チーズなどは控えめに・・といっても背の青い魚の油にはオメガ3系必須多価不飽和脂肪
酸と呼ばれるDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)と言ったLDLコレステロール値を下げ、血液をさらさらの状態に保って血
圧を安定させる成分が含まれていてこれは例外ですが・・それに代わって多価不飽和脂肪酸の多いリノール酸系の植物性の油、紅花油、コー
ン油、米油等を適量用いるのが良い事は既に広く知られています。簡単には動物性油1に対し植物油2の割合で摂る、即ち室温で液状の油を
少し多めに、室温で固まっている脂肪は少なめにするのが良いとされています。運動クラブで運動している児童生徒は善玉コレステロールが高
くなります。悪玉の多い児童は約10%です。

また中性脂肪(トリグリセライド)に関しましては、どちらかというとコレステロールよりも食事の直接の影響を受けやすく、その主たる原因になる
蔗糖や果糖やアルコールといった糖質や主食のご飯やパンといった炭水化物を
主としたカロリー制限を行わなくてはなりません。 

高血圧症  高血圧も動脈硬化症の大きな原因となります。小児成人病検診の結果3%未満ですが、小学生にも高血圧症が認められ、その半
数以上は肥満を伴つています。インスタント食品、スナック菓子などの塩分の多い食品を控え、運動を増やし、肥満を是正し、外で遊んでストレ
スを少なくするようなライフスタイルが必要です。

糖尿病  WHOによれば21世紀の最も重要な病気は糖尿病とエイズ(ウイルス性疾患)と言われています。現在世界の糖尿病人口は推測2億
人位、米国だけでも2100万人と推測されており、2025年には3億人以上になると推測されています。ところで2008年現在、わが国では糖
尿病の患者数は約890万人に近いと言われ、その可能性が否定できないと言う予備軍を合わせれば、何と国民4.7人に一人に当たる221
0万人に近い人達がこの糖尿病と言われる範疇にいる事になります。従っていまやわが国では国民病と呼ばれるゆえんであります。糖尿病は
発症すると根本的治療法が無いため、一生の付き合いとなり、食事療法でカロリー制限を守り、適正な運動を続け、必要なら薬を欠かさず服
用するといった、終わりなき摂生の日々が一生続くことになるわけです。ところで糖尿病には2つのタイプがあります。一つは1型糖尿病と呼ば
れる何らかの事情(免疫の異常や、特殊なウイルスの感染などの原因)で膵臓のランゲルハンス島が破壊されインシュリンが全く出なくなってし
まったという、インシュリン依存型糖尿病であり、大半の97パーセント位の人に見られる糖尿病は2型糖尿病と呼ばれるインシュリンの分泌が
悪かったり、上手く働かなかったりする、インシュリン非依存型糖尿病であり、まさにこのタイプが生活習慣病の典型の一つと言われており、糖
尿病になりやすい遺伝的な素因と育ってきた環境要因・・すなわち、過食、運動不足、肥満、飲酒、ストレス、妊娠等の所謂、さまざまな生活習
慣が重なり合って発症するわけで、従来は小児の糖尿病はインスリンが分泌されない1型タイプのものでしたが、今日においては成人型2型タ
イプが増加しています。インスリンの需要を少なくするために過食を控え、インスリンの効果を増すために運動不足、肥満、高脂血症を是正す
ることが必要です。成人型糖尿病を示す児童生徒は0、06%位です。  

III 動脈硬化の予防は

動脈硬化がなぜ起こるのか? この原因についてはまだ不明な点が多く、現在わかっていることは、どのような人が動脈硬化を起こしやすい
かということです。血液中のコレステロールなどの脂質が高い人(高脂血症)、肥満、高血圧、糖尿病のある人、家族歴のある人、喫煙する人
が動脈硬化を起こしやすいのです。この高脂血症、肥満、高血圧、糖尿病、家族歴、喫煙などを動脈硬化症の危険因子と呼んでいます。この
ため、これらの危険因子から子どもを守ることが、将来子どもたちを第2、3位の死亡原因である心筋梗塞や脳血管障害から守ることになるの
です。小・中学生で、肥満度20%以上の頻度は約6〜8%、収縮期血圧が140mmHg以上の頻度は1〜2%、糖尿病の頻度0.01%以下であ
るのに対し、血清コレステロール値が200ng/d1以上を呈する小学生、中学生の頻度は、滋賀県ではそれぞれ約17%、10%でした。このよ
うな結果から、動脈硬化を予防するには、高脂血症と肥満に
対する予防対策が重要となります。 

わが国の子ども達に高脂血症、肥満が増えた原因としては、食生活の洋風化による動物性脂肪のとりすぎ、飽食時代といわれる現代を象徴
する過食と、子どもの望むままに食事、間食を与えるなど子どもに対する過保護や、全国的な都市化現象により遊ぶ空間の減少、少子化、高
学歴志向により遊ぶ仲間の減少や遊ぶ機会の滅少、テレビを見る時間の増加、テレビゲーム、ファミコンの普及、学習塾に通う時間の増加な
どによる運動不足があげられます。運動の能力の劣るものは、動脈硬化指数が高くなっているという調査結果があり、平素から運動させ、運
動好きにすることが重要であります。 両親のいずれか、あるいは、両方に肥満があると、子どもが太り易いといわれています。一旦太ってしま
うと治療が容易でないので、特に、母親には肥満の害と予防について知っていただく
必要があります。

小児肥満は、成長という因子が加わりますので、体重60Kg以下であれば、体重を現状維持とし、身長を伸ばして肥満度を次第に下げるのがよ
いし、中等度以上の肥満に対しては、食事制限による減量が必要となります。ビタミン、カルシウムなどは十分にとり、バランスの良い食事でな
けれはなりません。将来の骨粗鬆症の予防のためにも、20歳頃までに十分骨を育てておく必要があるからです。夜食をとると血清コレステロ
ール値が高くなりますので、
注意が必要です。

生活習慣病予防のための食事指針として、(1)日本食、中華食、洋食などをミックスした雑食にする、(2)食品数を1日30品以上、週に100
品以上にする、(3)低食塩にする、(4)砂糖をとりすぎない、(5)カルシウムを十分に、(6)植物繊維を十分に(7)固いものも与える、(8)偏
食をしない、(9)味つけをおいしく、(10)間食を位置づける、(11)食卓に空腹でむかわせる、(12)食卓を楽しくする、があげられます。

生活習慣病の予防で最も重要な部分、即ち個人の生活習慣というものは、もって生まれてきたものに加え、幼い時からのさまざまな環境とそ
れに伴う膨大な体験から完成されたもので、その個人にとっては人生そのものです。従って人生は習慣であり、多かれ少なかれ、半ば自動的
に行われる行為の連続であり、乳幼児期は人格形成、生活習慣(ライフスタイル)形成の基礎となっている時期で、この時期に刷り込みされた
摂取習慣、食嗜
好、運動習慣などは、"しつけ"や"三つ子の魂百までも"といわれるように、将来の生活習慣(ライフスタイル)を決めてしまいます。この時期の
子育てが子どもの将来を大きく左右しますので、この面に対して十分な配慮が必要です。従ってこれから何とか採り入れよう、実行しようとして
いる理想の生活習慣と現実の生活習慣との隔たりがあまりにも大きいとストレスになることも多く、長続きしなくなる恐れもあり、総てを即座に
実行する事が重要なのではなく一歩一歩徐々に慣れていく事がむしろ重要なことなのです。

また、次世代の親となる子ども達、特に、中学、高校生には十分な保健教育をする必要があります。刷り込みされた習慣を改善するために
は、繰り返し繰り返し根気よく保健指導、栄養指導することが重要です。

IV 小児高脂血症の予防・治療は

高脂血症の予防・治療とは、血中のコレステロール値を正常値に保つことです。これには、食事療法、運動療法および薬物療法があります
が、小児では食事療法と運動療法が主体で、薬物療法については現在のところ小児に対してコンセンサスの得られた方法はないようです。

1.食事療法

血中のコレステロールは、食事の中にふくまれるコレステロールのほかに、脂肪、糖質、タンパク質から肝臓でつくられます。このため、高コレ
ステロール血症の治療は、食物中の脂肪、タンパク質、炭水化物をバランスよく摂ることにより、肝臓でのコレステロールの過剰な生成を押さ
えようとするための食事療法を行います。この食事療法を行うにあたって、食物中のタンパク質(P)、脂肪(F)、炭水化物(C)をバランスよく食
べる指標として「PFCバランス」ということばがあります。これは、必要なカロリーをタンパク質は12〜13%、脂肪が20〜30%、炭水化物が5
7〜68%の割合で摂ることが適量とされています。ところが、わが国の5歳の小児の年次別PFCバランスを見ると、1952年には脂肪が12.
6%であったのが、1970年には28.4%、1982年には33.8%となってきています。日本人、とりわけ小児のこのような脂肪の摂りすぎが、
小児の血中コレステロール値を上昇させているものと
思われます。このため、とくに脂肪の摂りすぎに注意する必要があります。

2.運動療法

運動は、エネルギーを消費することによりコレステロールの産生を抑え、一方、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増加させ、動脈硬
化を予防します。1時間運動した場合のエネルギー消費量は、ゆっくりした歩行で160kcal、ふつうの歩行で200kcal、急ぎの歩行で270
kcal、エアロビクスやジャズダンスで300kcal、ゆっくりとした水泳で360kcalとなります。この数値を見ると、スポーツジムヘ通わなくても、急ぎ
歩行を心がければけっこうな運動療法をしていることになります。また運動療法の場合、楽しく継続できる運動を選ぶことが大切です。とくに小
児の場合は、歩いて通学し、体育の時間や遊びの時間に十分に体を動かしていれば運動量は十分だと考えられます。

3.薬物療法

薬は小児での安全性は確立されていないので、小児科領域では現在のところ使用されていません。

これですべてではありません。十二分にご理解いただき誤解なきようお願いいたします。