生活習慣病のあらまし!


ここ何年来、生活習慣病という名前は特によく耳にするようになってきた言葉の一つではありますが、生活習慣病とは非常に幅広い意味合い
を持つ言葉であり、其の切り口、話の角度により、様々な話にも発展するわけですが、まずはその予防には何といっても生活習慣病とは一体
どういうものなのか?を知る必要があります。そこでここでは
特に”生活習慣病のあらまし”と言ったことについてお話いたしましょう。

そもそも生活習慣病という名前は1996年(平成8年)に当時の厚生省がそれまで成人病と呼んでいた病気の多くを、40台過ぎの中高年から
は誰にでも起こりがちな、加齢による老化現象として起こってくる、まあ歳をとったらやむをえない病気だとの認識では・・・いささか誤解されそう
だとの立場から、実は加齢による老化現象ばかりでなく、若い時代から知らず知らず継続してきている個人個人の健康上あまり良くない生活
習慣による影響が大きな原因であるという事を一層解りやすくするためにつけた名前で、アメリカはもとよりフランスにも生活習慣病という概念
が導入されており、ドイツでは文明病、スウェーデンでは裕福病という名称が用いられています。そして更に2000年3月には2010年を目標に
国民の健康や生活の質の向上と、健康なままの寿命(健康寿命)を延ばすことを目的にした健康作り運動(健康日本21)が発表されました。こ
れには一日の食塩の摂取量は10グラム未満、野菜の摂取量は350グラム以上、成人男性で1日の歩行数は9200歩など、目標値が9種
類、70項目にわたって決められていますが・・・残念ながら”絵に描いたもち”?2011年を過ぎた現在ても、十二分に理解されているとはとて
も思えず、あまり成果が上がっているとも思えません!
また2006年の医療法改正で、患者が多く、対策の緊急性が高い、きわめて細やかな対応が求められる等の条件を満たす病気として指定さ
れた4大疾病(がん、心臓病、脳卒中、糖尿病)は何れも生活習慣病そのものです。尚、
2011年7月7日に精神疾患(うつ病、統合失調症、認知症)を加え5大疾病と改められました。

また我が国では今までは成人病対策として、病気を早期発見して早期に治療する(二次予防)に力が注がれてきましたが、今後は更に一歩進
んで、健康的な生活習慣を確立することにより、病気の発症そのものを予防する(一次予防)の考え方が重要視されるようになってきたわけで
あります。因みに(三次予防)とはリハビリテーション等を指します。従ってどの病気が生活習慣病かを分類するといった事にはあまり意味はな
く、さまざまな病気を生活習慣病と云う観点から捕らえる事が基本となるわけです。従って我が国での死亡の3大原因である1位の悪性新生物
の多く・・・いわゆる・・がん、をはじめ2位3位の虚血性心疾患、いわゆる・・狭心症、心筋梗塞や、脳血管疾患、いわゆる・・脳出血、脳梗塞、
脳血栓、等の脳卒中、などを始めとする中高年から罹患しやすい多種多様の皆さんに良く
知られている病気の発症は、大なり小なりこの日常の生活習慣に深いかかわりがあるとされています。

ところで我が国は、世界保健機関(WHO)の「世界保健報告」の発表によれば、「平均寿命」で女性は1985年から世界のトップに立ちました
が、残念ながら26年間世界のトップであった女性は、昨年2位に後退しましたが、今年はトップに帰り咲きました、今年7月末の厚労省発表の
簡易生命表(2012年統計)によれば「平均寿命」は男79.94歳、女86.41歳となり、男性はも昨年の8位からは回復したものの5位でし
た。また昨年までの統計では、日本人が75歳まで生きる割合は男性71.9%、女性85.9%であり、90歳までは男性21.3%、女性45.
4%と少し短くなりましたが、この辺にも影響が出るのでしょうか?そしてまた、三大死因(がん、心疾患、脳卒中)で死亡する確率は男性53.
97%、女性50.88%で、ほぼ半分を占めると言われています。尚、元気で活動的に生活できる人生の長さを表す「健康寿命」(一生のうち日
常生活に大きな障害を及ぼす病気や怪我などの期間を推計し平均寿命から差し引いた寿命)も2007年の統計では世界192ヶ国中、最長で
あり女性77.2歳、男性71.9歳となっていますが、はたして今も変わりはないんでしょうか?所で・・・(何と「平均寿命」は2017発表(2016
年統計)では男80.98歳、女87.14歳で男女共に香港に次いで2位なのです!敬老の日の発表では100歳以上は6万7824人で47年連
続増加で女性が88%を占めます!最高齢は北海道の野中正造さん112歳だそうです!)・・・大震災の影響などもあるようですが、2年連続で
男女ともに前年を下回っています。所で・・・2014年7月09日の厚生労働白書の概要では、健康に日常生活を送れる「健康寿命」は平均寿
命に比べ、男性は70・42歳で約9年、女性は73・62歳で約13年も短く、健康寿命を延ばす重要性を訴えています。また生活習慣病の予防
に重要な食生活に関しては「気をつけていると思わない」と答えた人は全体の31・2%。20〜39歳に限ると43・7%に増えています。

長寿の原因には医療保険の充実や近代化を果たした生活環境の影響はもちろんの事ではありますが何といっても、多くの恐れられていたペ
ストや赤痢、コレラ、天然痘、結核、等といった感染症が、文明、科学により克服されたのが一番の要因であります。2011年10月31日時点
で、70億人になった世界の人口も、キリスト誕生の頃の約2000年前の世界では、わずか約2億5千万人くらいだったと推定されていますが、
中世のヨーロッパ(14世紀)ではその人口の25から30パーセントが黒死病として大変恐れられたペストの大流行により失われたり、我が国で
も、当時の世界でも屈指の人口を擁する大都会であった江戸でも安政年間のコレラの大流行により20万とも30万とも云われる人口が失われ
ています。文明開化といわれた明治になってからでさえ、あの"たけくらべ"で有名な文豪の樋口一葉は24歳で、東海の小島のいその・・で有名
な石川啄木は26歳という僅か二十歳代の若さで結核により命を落としています。

人類最大の敵、恐怖の疫病、新型インフルエンザ!

何しろ平均寿命が20歳台を越えたのは江戸中期になってからのことで、30歳台を越えるようになったのは、なんと1880年(明治13年)のこ
とでありました。40歳台を越えたのは大正になってからで、敗戦直後の昭和22年(1947年)には、それでも未だ男性は50.06歳、女性は5
3.96歳と言う、本当に人生僅か50年!でしかなかったのです。また別の角度から考察しても1963年(東京オリンピック前年)では100歳以
上の人は僅か153人を数えるのみでしたが、1981年には1000人、約30年後の1994年にはなんと一挙5000人にもなり、その後僅か4
年後の1998年には10000人と驚くべき増加の仕方であり、その後も毎年驚くべき増加傾向にあります。1999年には11346人、2000年
には13036人、2001年には17934人にそして2003年には20561人、2005年には25554人まで増え、2008年には何と36276
人、そして2009年には44449人、2012年には51376人と何と5万人を超え、2013年には54397人にまで増加しましたが、残念ながら
男性はその内の6791人でしかなく、僅か12.5%に過ぎません。

ところが我が国では1999年、その100歳以上が11346人であった頃、人口では約2倍強に過ぎないアメリカでは約40000人と何と3.5倍
もの100歳以上の人がいたわけで、2050年には80万人にもなると推測されています。ところが我が国のような先進国では、このような寿命
の驚異的なのびの足元を引っ張る原因は自殺者の増加や大災害の発生、インフルエンザの流行などもその一因ではありますが、最大の要因
の一つが現代ではこの生活習慣病であると言われています。また死亡原因では実に男性の56.98%、女性の55.20%が3大生活習慣病
(癌、心疾患、脳血管疾患)で占められています。

ところでその生活習慣病のうち、死亡原因の1位の悪性新生物(ガン)は少し毛色が別としても、循環器病に分類される、2位の心筋梗塞や、3
位の脳卒中等はもちろんの事、多くの生活習慣病と呼ばれる病気の発症原因としてかかわりを持つ、もっとも重大な要因の一つが動脈硬化
呼ばれる現象であります。動脈硬化とは血管の内壁にコレステロール等がたまったり、血管の細胞が増殖したりして、血管が弾力性を失い、硬
くもろくなるとともに、血管壁が厚くなり、内腔が狭くなった状態をいいます。このような動脈硬化が進むと、身体にとって大変重要な酸素や栄養
を運ぶ血液が、血管が破れたり、詰まったりすることにより体の隅々の組織まで酸素や栄養を運べ無くなってしまいます。従ってこの動脈硬化
を上手に予防したり進行を遅らせたりする事ができれば、かなりの点で更に元気で長生きにつながる事になると云うわけです。

そこでこの動脈硬化を発生させる要因にはどういうものがあるかということですが、加齢による老化現象は誰もが避けて通れぬ要因でありこれ
は別として、よく知られている事に次の4つ、即ち高血圧、脂質異常症(高脂血症)、高血糖、肥満、があり、アメリカなどでは、これら4つがそろ
った状態を"死の四重奏”デッドリークアルテット”と呼んで
おり、心筋梗塞、脳梗塞を併発するリスクが35倍に上昇するともいわれ、この4つの内一つがあるだけでもリスクは約5倍になるといわれてい
ます。これに喫煙と飲酒(毎日3合以上等の多量の)の習慣を加えれば"死の五重奏
”デッドリークインテット”と呼ばれることになります。中でもとりわけ諸悪の根源と目されているのが肥満と喫煙の2つであります。

肥満は平成14年の国民栄養調査によると男性では30〜69歳の約3割が肥満で、女性では60歳以上の肥満が最も多く約3割に上るといわ
れます。今更申すまでもないことではありますが、私達の身体は水分、脂肪、たんぱく質、ミネラル、糖質、などの成分から成り立っています。こ
のうちたんぱく質、ミネラル、糖質の量はそれほど変化はしないのですが、脂肪の量には変動があり、体重が増えたり減ったりするのは、主に
この脂肪の変動によるものなのです。従って医学的にはただ単に外見上の太った状態を指すのではなく、体全体に占める脂肪の割合(体脂肪
率)が高くなりすぎた状態を肥満と言っているわけです。そして肥満を放置すれば、糖代謝異常、高血圧、LDLコレステロールの増加、HDLコレ
ステロールの低下、中性脂肪(トリグリセライド)の増加、等をきたします。
この肥満には良く知られている2つのタイプがあり、主に下半身に脂肪がつく皮下脂肪型肥満といわれる女性に多い洋ナシ形と呼ばれる肥満
に比べ、リンゴ型と呼ばれる、おなかの大きくなる内臓脂肪型肥満が特に問題になります。最近ではこの内臓脂肪型肥満をメタボリックシンドロ
ームと呼び腹囲が男性で85センチ女性で90センチ以上を超えないよう注意が促され、平成20年度から始まった特定検診でも注目されてい
る所以です。
ところで体脂肪率を簡単に、手軽で 正確に測る方法が無いため、一般的には肥満の程度をあらわすのに良く用いられるのが、BMI(ボディマ
スインデックス)と呼ばれる肥満指数であり、其の数値が肥満を表す25を超えないように、理想の22に近かずけるように努力しなければなり
ません。・・・BMIの計算方法でありますが、体重を身長の2乗で割った値であります(65キロ÷1.68メートル÷1.68メートル=23)。
因みにこの値が25になると高血圧症のリスクが2倍、27で糖尿病、29では高脂血症を併発するリスクが2倍に
なるといわれています。

喫煙に関しましてはタバコの煙はなんと4000種類もの化学物質から出来ているといわれ、其の中の200種類は有害物質で更に其のうち
70種類は発ガン物質であるとまで云われていますが、其のうちのタール、ニコチン、一酸化炭素、が良く知られた3大有害物質であります。
タールは肺がんを初めとする発癌物質として周知の事実でありますが、なかでもベンゾピレンは一番の発がん物質といわれています。非喫煙
者に比べ喉頭がんは32.5倍、食道がんは2.2倍、肺がん4.5倍、肝臓がん3.1倍の発生率といわれ、70歳以上の6人に一人とも言われ
るCOPD(慢性閉塞性肺疾患)にいたっては99パーセントがタバコの害によるものともいわれています。また心筋梗塞、脳梗塞などの発症原因
である動脈硬化を促進するのはおもにニコチンと一酸化炭素であります。アルカロイドであるニコチンは心拍数や血圧を上げまた血管を収縮
させる事はタバコ呑みの間では良く知られている事であり、一酸化炭素はヘモグロビンと結びついて末梢組織への酸素供給量を減らし酸欠状
態を作り出し、活性酸素を多く作り出して血管壁をも傷つけ動脈硬化を促進させます。このようなことから実に日本人の死亡原因の10%がタ
バコとされており、毎年10万人を超す人がタバコが直接の原因で死亡しているといわれています。
さらに問題なのは受動喫煙ともいわれる副流煙で、主流煙に比べ3〜130倍もの有害物質が含まれているとも言われており、したがって"タバ
コは毒のカンズメ"といわれる所以でもあります。ところで近年、低タール、低ニコチンと呼ばれる、ゆわゆる軽いタバコが主流を占めているよう
ですが軽いタバコほど大きく、深く吸わないと満足感が得られにくいために、有害物質の体内への吸収はさらに大きくなるとも言われ、軽いタバ
コに切り替えたからといって安心にはつながらないのです。2010年9月の厚労省によれば受動喫煙が原因とみられる肺がんや脳梗塞での死
亡者は年間6800人に及ぶとのことです。WHOの下部機関のIARC(国際癌研究機関)も2004年にタバコの煙は直接人の吸い込まれる部分
は勿論、周りに及ぶ煙も、もっとも明らかな人に対する発がん物質と定義しています。
ところで我が国の男性の喫煙率は先進諸外国の中では群を抜いて高く、JT(日本たばこ産業)の調査では成人男子の喫煙率は1966年の8
4%をピークに年々減少し(2002年49.1%)(2003年48.3%)(2005年45.8%)と50%を下回り、今年は36.8%になりましたが(女
性は9.1%と10%を下回ったのは2001年以来)、アメリカの成人男子の喫煙率の24%(ニューヨークでは18%)程度と比べればまだ大変
高く、医師の喫煙率を見ても日本の男性医師の喫煙率20%強は欧米の医師(男女)の5%前後に比べかなり高く、喫煙人口は男女を合わせ
れば21.1%、2800万人もいると推測されています。特に近年の若い女性の喫煙率の増加が心配されます。
2008年2月のWHO(世界保健機構)の発表によれば、20世紀には世界中でタバコが原因で約1億人が死亡しましたが、喫煙人口は途上国
を中心に増加しているといわれ、現在凡そ6秒に一人が死んでおり、2013年では年間推定600万人の人々がタバコが直接の原因で死亡し
ていると考えられており、2030年にはその数800万人になるであろうと推測され、21世紀中に累計10億人に達すると予測されています。従
ってWHOでは"喫煙は予防しうる現代最大の疫病"と位置付けている所以でありますが、しかしこれらの肥満と喫煙の2つの事柄は、何れもま
ずは自らの生活習慣を積極的に改める必要が第一であり、難しい専門的な知識が無ければわからないといった事柄では
ありません。

実際に病気として問題になるのは高血圧症脂質異常症(高脂血症)、糖尿病等であり、これらの病気自体が何れも代表的な生活習慣病その
ものであり、動脈硬化を引き起こす代表的な疾患であるというわけであります。いずれにしてもこれらの疾患をはじめ多くの生活習慣病に共通
して見られる特徴は、人に移るといったような感染性はなく、40台過ぎの中高年から多発する傾向にあり、かなり進行するまで自覚症状に乏し
い傾向があるということであります。
             お疲れ様です? ここらで一寸一服 コーヒーブレイク!     心筋梗塞や脳卒中は何の前触れも無く突然襲ってくる事の多い病気です 予防には普段からの健康管理が第一です! 積極的に定期検診も心がけましょう!         

それではまずその代表的な疾患の一つ、高血圧症とはどういう病気なのでしょうか?・・・ところで私達の心臓は1日に約10万回も収縮と拡張
を繰り返して、全身に絶え間なく血液を送り出していますが血圧が高い状態が続くと血管に過度の負担がかかりその結果、血管が障害されて
動脈硬化が進み、血液の流れが悪くなったり、血栓(血の塊)が出来やすくなります。そしてこれらの異変が進むにつれて脳、心臓、腎臓、など
の主要臓器が障害され、脳卒中、心筋梗塞といった生命にかかわる重大な合併症が引き起こされます。一方心臓の方は高い圧力で血液を送
り続けるためポンプの役割を果たしている心筋が厚くなり"心肥大"と呼ばれる状態になり、やがては収縮力、拡張力が弱くなり全身に血液を
送り出せないと言う大変な状態"心不全"へと至ります。つまり高血圧がいけないといわれるのは、こうした重大な合併症を引き起こす危険があ
るからです。わが国では高齢者の半数以上は高血圧といわれていますが、実際に薬物療法を受けている人でも140/90以下にコントロールさ
れている人は25パーセント以下といわれ、長生きするためには血管管理をもっと厳しくする必要があるといわれている所以であります。所でこ
の高血圧症には大きく分けて2つのタイプがあります。一つは二次性高血圧症といわれるものでこれは初めから高血圧を引き起こす原病をもっ
ているもので比較的若い人に多く、高血圧の僅か5パーセントを占めるくらいでしかありません。残りの大半、95パーセントを占めるのは原因
がわからない、特定できないといった本態性高血圧症と呼ばれるものです。この本態性高血圧症は其の原因が定かでないといっても、血圧の
さまざまな調節機能のどこかに原因があって起こるのは確かで、その原因には"遺伝"と"環境"がかかわっていると考えられていますが、その
うちでも高血圧になり易いといった体質を引き継いでるといった遺伝はあまり高い割合ではないといわれています。一方環境とは肥満、運動不
足、塩分の多い食生活、喫煙、飲酒、ストレス等の心理、社会的なものや、生活習慣などがあり、従って予防だけでなく、既に治療中の人もこ
れらの事柄に十分注目して積極的に生活習慣を改善する必要があります。

ところで高血圧症の目安はここ数年らい、年齢を加味して少し詳しく分類されるようにはなってきましたが、日本高血圧学会の治療ガイドライン
では、正常値は収縮期圧で130以下、拡張期圧で85以下と言われています(糖尿病、慢性腎疾患、心筋梗塞などでは130/80)。しかしこれ
までは、まずはとりあえずあまり難しいことや、細かいことは抜きにして、収縮期圧で140、拡張期圧で90以下に保つように心がければあまり
問題となることはないでしょう!と言われてきていたのですが、最近では管理はさらに厳しくなったということです。勿論これを超えれば直ちに薬
物療法を開始しなくてはいけないわけではありませんが、まずは生活環境要因と呼ばれる多くの悪しき生活習慣を積極的に改善する必要があ
ります。自覚症状が乏しいからといって何もせずにこのまま黙って放置すれば知らず知らずの内に取り返しのつかない不可逆性の変化である
動脈硬化を引き起こしてしまうことは十分に理解しておく必要があります。

次に脂質異常症(高脂血症)についてですが、血液の中には、コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、遊離脂肪酸、リン脂質といった脂
肪が含まれていて、これらはそれぞれ体の組織の細胞膜や副腎皮質ホルモンや消化液の胆汁を作ったり、また体にエネルギーを供給したりと
大変重要な役割をしていますが、これらの脂肪の内一つでも普通より多くなった状態を高脂血症と呼び、その内でもとりわけこのコレステロー
ルと中性脂肪の2つの増加が、
解りやすく云えば、何れもいわゆる血管の垢となって血管を詰まらせたり、ぼろぼろにしたりして動脈硬化を促進させます。

ところでコレステロールは一見、白蝋のような物質で、全体で100〜120グラム位あるといわれていますが、その内には自らの肝臓で合成
れる物と、食物から小腸で吸収される物との二つがあり、食物由来のものはその内の30%位と言われ大半の70%は肝臓で合成された物と
言われています。またそのコレステロールは善玉と悪玉と呼ばれる二つのコレステロールに分類されるわけですが、悪玉は低比重リポ蛋白
(LDLコレステロール)といって末梢組織にコレステロールを運んで沈着させ、また血液の粘度を上げたりして動脈硬化を促進させるのに比べ、
善玉と呼ばれる高比重リポ蛋白(HDLコレステロール)は動脈壁に沈着したこの悪玉コレステロールを取り除いて肝臓に戻す働きをしてくれて
いるわけです。したがってコレステロールに関してはこの悪玉コレステロールを増やす飽和脂肪酸の多い動物性の油、バター、ラード、チーズな
どは控えめに・・・といっても背の青い魚の油にはオメガ3系必須多価不飽和脂肪酸と呼ばれるDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペン
タエン酸)と言ったLDLコレステロール値を下げ、血液をさらさらの状態に保って血圧を安定させる成分が含まれていてこれは例外ですが・・・そ
れに代わって多価不飽和脂肪酸の多いリノール酸系の植物性の油、紅花油、コーン油、米油等を適量用いるのが良い事は既に広く知られて
います。簡単には動物性油1に対し植物油2の割合で摂る、即ち室温で液状の油を少し多めに、
室温で固まっている脂肪は少なめにするのが良いとされています。

また中性脂肪(トリグリセライド)に関しましては、どちらかというとコレステロールよりも食事の直接の影響を受けやすく、その主たる原因になる
蔗糖や果糖やアルコールといった糖質や主食のご飯やパンといった炭水化物を主としたカロリー制限を行わなくてはなりません。従って特に間
食には十二分注意する必要があります。一応の基準値としては総コレステロール値では219以下が目安ですが、特にその内容が問題になる
所であり、LDLコレステロール(悪玉)は139未満、HDLコレステロール(善玉)は40以上であり、中性脂肪は空腹時の値で150以下であれば
申し分が無いわけですが、近年、例え総コレステロールが少しくらい高くてもLDLコレステロール(悪玉)が基準値以内ならあまり心配は要らな
いのでは無いかと言われています。

さて次に問題となるのが糖尿病です。WHOによれば21世紀の最も重要な病気は糖尿病とエイズ(ウイルス性疾患)と言われています。現在世
界の糖尿病人口は推測2億4千6百万人位で新たに毎年7百万人増加しているといわれています。米国だけでも2100万人と推測されてお
り、2025年には3億人以上になると推測されています。ところで2009年現在、わが国では糖尿病の患者数は約890万人に近いと言われ、
その可能性が否定できないと言う糖尿病予備軍(1320万人)を合わせれば、何と国民4.7人に一人に当たる2210万人に近い人達がこの
糖尿病と言われる範疇にいる事になります。従っていまやわが国では国民病と呼ばれるゆえんでありますが、残念ながら医療機関に受診して
いるのはその内の約半数程度と言われています。糖尿病は発症すると根本的治療法が無いため、一生の付き合いとなり、食事療法でカロリー
制限を守り、適正な運動を続け、必要なら薬を欠かさず服用するといった、終わりなき摂生の日々が一生続くことになるです。

糖尿病の歴史を紐解きますと、1921年にカナダのトロント大学の医師と医学生であったバンチングとベストの二人によってマージョリーという
愛犬を犠牲にして試みられた実験から発見され、インシュリンと名付けられた膵臓のランゲルハンス島のベーター細胞から分泌されるホルモン
により、血糖がコントロールされているということが明らかにされるまでは、罹患するとやせ衰えて盲目となり僅か数年で死んでしまう恐ろしい"
暗黒の病気"といわれ大変恐れられていた病気でありましが、この現象は現代では周知の通り、網膜の動脈硬化により引き起こされる糖尿病
性網膜症によるものであり、我が国における年間3500人にも及ぶ失明者のおおむねがこの糖尿病性網膜症によるものといわれています。こ
糖尿病性網膜症は糖尿病性腎症、糖尿病性末梢神経障害と並んで細動脈の動脈硬化による合併症の代表でありますが、当然ながら心筋
梗塞や脳梗塞をも引き起こす大いなる引き金にもなるわけです。

ところで糖尿病には2つのタイプがあります。一つは1型糖尿病と呼ばれる何らかの事情(免疫の異常や、特殊なウイルスの感染などの原因)
で膵臓のランゲルハンス島が破壊されインシュリンが全く出なくなってしまったという、インシュリン依存型糖尿病であり、子供や若年者に多く見
られますがそれは全体の僅か3〜4パーセントに過ぎません。大半の97パーセント位の人に見られる糖尿病は2型糖尿病と呼ばれるインシュ
リンの分泌が悪かったり、上手く働かなかったりする、インシュリン非依存型糖尿病であり、まさにこのタイプが生活習慣病の典型の一つと言
われており、糖尿病になりやすい遺伝的な素因と育ってきた環境要因・・・すなわち、過食、運動不足、肥満、飲酒、ストレス、妊娠等の所謂、さ
まざまな生活習慣が重なり合って発症するわけで、簡単にいえば血液中に含まれているブドウ糖(血糖)が異常に多くなる現象であります。通常
身体に取り入れられた糖質は消化・分解されてブドウ糖になり腸から吸収されて肝臓に送られ、一方では血液を介して全身に運ばれ、脳や筋
肉の働くための重要なエネルギー源になりますが、一方余分なブドウ糖は、肝臓でグリコーゲンに変えられて貯蔵され、必要な時には再びブド
ウ糖となってエネルギー源として使われるのです。こうしたブドウ糖の利用や貯蔵に不可欠の働きをしているのが、インシュリンと呼ばれる膵臓
から分泌されるホルモンです。食後は消化、分解が盛んに行われるため、誰もが血中のブドウ糖濃度、すなわち血糖値が高くなりますが、しか
しこのときインシュリンが分泌され、その働きによってブドウ糖が処理されるため、血糖値は元のように下がっていきます。ところがインシュリン
が十分に分泌されなかったり、分泌されていてもその働きが悪かったりすると食後の血糖値が下がらなくなり、高血糖が続く様になります。つま
り、ブドウ糖がエネルギー源として利用、貯蔵されにくくなり、血中のブドウ糖がどんどん増えてしまうわけで、この高血糖と言う代謝異常が血管
の老化を助長すると言われており、このような状態を糖尿病といいます。

それでは次には糖尿病の診断基準という事になりますが、現在では1997年の米国糖尿病学会での診断基準に習って空腹時血糖が126以
上、または75グラムのブドウ糖負荷試験(75グラムOGTT)での2時間値が200以上であれば糖尿病と診断されます。
お馴染みの尿糖の場合には血糖値が160〜170以上にならないと出ないこともあり、従って軽い糖尿病の場合には見過ごされてしまいます
から、尿糖が出てないからといって糖尿病ではないと言い切れるものではなく、必ず血糖の検査で判断しなければなりません。特に空腹時血糖
が110から125までの境界型糖尿病と呼ばれる予備軍の人は、発症させないためには、普段から食事のカロリーには十二分な注意を払い、
血糖のコントロールを心がけなくてはなりません。また食前食後を問わず血糖値が160以上になる人も、一度精密な血糖検査を受ける必要が
あります。また既に糖尿病と診断されている場合には、その時々の血糖値にばかり気を取られてないで、特にHbA1c(糖化ヘモグロビン)の値
に十二分に注目、注意すべきです。
(2012年4月からHbA1c国際標準化の基本方針によりHbA1c値が変更されます、要注意!)

さて糖尿病の発生を防ぐには・・・ということですが、糖尿病はこのように主役は患者自身であり、自己管理の病気と言われていますから、発症
しないように自己管理をすると言うことに尽きるわけで、エネルギーの過剰摂取により肥満にならないように(1日の必要カロリーは、標準体重
に、仕事に見合ったカロリー係数を掛け合わせて計算できる)、日頃の食事管理をすることと、日常生活に体力に見合った適当な運動を取り入
れる心がけをする(例えば1日に3キロくらい、一週間で20キロ位を目標に歩くとか・・)ことが発症予防と言う車の両輪となるわけです。

では最後に多種多様なこのような生活習慣病を予防するには、一般の日常生活習慣において、あまり長続きしそうにない難しい事等は別とし
て、どのような点に注意したらいいのでしょうか?
アメリカなどではイルネス(病気)に対してウエルネス(健康)という言葉がよく用いられます。そして誰もが手軽に今からでも出来るという、その
ウエルネス運動としてよく言われていることにファイブエス(5S)運動と言うのがあります。つまりSUGER(砂糖)のS、 SALT(塩)のS、 SNACK
(間食)のS、 SMOKING(喫煙)のS、 SITTING(座りっぱなし・・運動不足)のS、 この"死を呼ぶ5つのS"を減らしましょうと言う運動です。

"1.2.3.運動"と言うこともよく言われています。即ち”1”は一駅手前でバスは降りなさい、”2”は2キロ以内は歩きなさい、”3”は3階までは
歩いて上りましょうという意味です。そして我が国でも以前から"3白の害"として砂糖と塩と白米(米は分搗きで食え!)の摂りすぎによる弊害は
よく知られている事であります。

さて・・・誰もが願う、家族に迷惑掛けず元気で長生きする為の健康管理には、このような色々と難しい事、嫌な事、煩雑な事も多いのです
が・・・あまりそうガチガチにばかり考える事もありません。特に70歳を過ぎる頃からの健康管理には特に食生活ヘの注意が大切で、高齢にな
れば食も細くなりがちな上、栄養不足(低栄養)にも陥りがちで、かえってそれが老化を加速させる事にもなりかねません。即ち栄養状態の指標
となる血清アルブミン(血中の主要たんぱく質)の低下に注意が必要で・・・生活習慣病の危険を乗り越えた70歳以上の方たちには、特にたん
ぱく質の栄養バランスが大切で、心身を共に元気に保つ為、例えば肉と魚は一対一の割合で摂るなど、肉類や油脂類を上手に積極的に摂る
必要も大いにある事を忘れてはなりません。

ところで最後になりますが、生活習慣病の予防で最も重要な部分、即ち個人の生活習慣というものは、もって生まれてきたものに加え、幼い時
からのさまざまな環境とそれに伴う膨大な体験から完成されたもので、その個人にとっては人生そのものです。従って人生は習慣であり、多か
れ少なかれ、半ば自動的に行われる行為の連続であり、"しつけ"や"三つ子の魂百までも"はよくそれを表しています。従ってこれから何とか採
り入れよう、実行しようとしている理想の生活習慣と現実の生活習慣との隔たりがあまりにも大きいとストレスになることも多く、長続きしなくな
る恐れもあり、総てを即座に実行する事が重要なのではなく一歩一歩徐々に慣れていく事がむしろ重要なことだと言われています・・・各病気の
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 これがすべてではありません。十二分にご理解いただき誤解なきようお願いいたします。

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